2009年2月2日月曜日

「味覚歳時記」と「男の料理レシピ」その2。

「味覚歳時記」

《初午》

“伊勢屋、いなりに~”と云いますが、大江戸の巷々の至る処には、庶民の現世のご利益の願いを込めて、稲荷社が勧請されています。

今日でも「初午(今年は2月6日)」の頃、木枯らしの絶え間に、稲荷太鼓の音が往実日の風情を伝える如く聞こえてきます。

“油揚げを稲荷”というのは、祭神の食物神、倉稲魂神(ウカノミタマノカミ)へ、日常、手近な食品である油揚げを供物としたからで、狐の好物であるというのは如何なものでしょうか。

植物油と大豆蛋白から成り、保存の利く油揚げは、夫々の嗜好に随って、調味料を自在に煮含ませることができる庶民の御馳走でありました。

更に大発明は「稲荷寿司」であります。

食酢をうったご飯を、油揚げで包み、大抵は、武蔵野の産物である牛蒡や人参等の根菜を、刻んで、入れてありますから、栄養完備の保存食、携行食として、重宝至極であります。

江戸っ子は、「稲荷寿司」や「干瓢巻き」を、お茶うけやお酒の肴にする位ですから、まさに、江戸庶民の「食文化の精華」と申すべきでありましょう。

ところで、数多の稲荷社に、供物とされた油揚げや卯の花(オカラ)、そして、稲荷寿司は、本当は、誰の口に入ったのでしょうか。

恐らくそれは、狐などではなく、各地から流れてきた、いわば無宿渡世の人々、食と職に窮した糊口を、しばしば慰めたのではないでしょうか。

落語「コーフィー」では、飢じさに店先のオカラに手を出すクダリがあります。

それを思うと、稲荷社に供えられた一枚の油揚げには、江戸八百八町の人々、特に年配の女性達の敬虔な信仰心と、やさしい、温かい心根が込められているように感ぜられるのであります。


一方、全国稲荷社の総本社ともいうべき、京都の伏見稲荷社は、秦公伊品具(ハタキミイログ)が和銅四年(711)正月午の日に創祀したとのことで、その昔、鶉の名所であった深草の里に鎮座されております。

近来は、一帯の竹藪に群集する寒雀の声が喧々たるのみですが、境内の茶店では、この雀の焼き鳥の香りが、如月の寒空に漂い、その前を素通りし難い心地となる塩梅であります。

焼き鳥やおでんを肴に、伏見の銘酒を熱燗で聞こし召し、蒸し寿司で暖をとる参詣客の姿に、ここにも、庶民のささやかな楽しみとやすらぎを見出すものです。

「男の料理レシピ」

《諸情報》

(稲荷ずし)

稲荷ずしは、各家庭でも簡単につくられ、そのご家庭の味も独自性がありよろしいものです。

ここでは、敢えて「東京っ子のおすすめ いなり寿司」を情報として掲載いたします。

「おつな寿司」

なんと、油揚げが裏返し、頬張ると上品なうす味の揚げの中から、ごはんとともに柚子の香りがほんのり口中に広がります。

「志乃多寿司」

明治の初め、すし大好きの武家の息子が始めたもの、サンショやはす入りのおいなりさん。

(油揚げ)

「京都四条の近喜の揚げ」 新宿高島屋地下全国うまいものコーナーにもあります。

ちょっと焦げ目がつく程度に焼き、粉鰹節と刻みねぎを少々ふりかけ、醤油をたらして、熱いうちに召し上がってください。

寒い夜、熱燗のお肴として「乙なもの」です。

《水菜鍋》 お肴・いなり寿司の取り持ちとして

(材料 4人分)

水菜または壬生菜         2束

京風油揚げ             1枚

または東京風油揚げ        2枚

合鴨の抱き身            1枚

酒                   2分の1カップ

味醂                  大匙2杯

薄口醤油               大匙5杯

だし汁                 水1.5リットル、だし昆布15cm,削りカツオ20g

(作り方)

① 水に昆布を浸して30分位置き、火にかける。  

   煮立ったら昆布を除き、削りカツオを加える。

再び、煮立ったら火を止めて、晒す。

② 酒・味醂・薄口醤油を加え「汁」を作り、土鍋に移す。

③ 水菜または壬生菜は、根元をよく洗い、6cm位の長さに切る。

   油揚げは、熱湯をかけて“油抜き”をしてから2cm幅に切る。

   合鴨は、薄く“削ぎ切り”にする。

④ 食卓に土鍋を持ち出し、汁が熱くなったら、まず、合鴨を2~3切れ入れて、色が変わったら、すぐ     

   に食べる。

   後は、次々に好みの材料を入れて、煮え過ぎないうちに食べる。

参考  「いなり寿司」を食べない場合は、茹でた蕎麦かうどんを入れて食べると美味しい。


《作成後の感想》

「その1」の時もそうでしたが、「味覚歳時記」を抜粋させていただいていると、山田さんと語り合っているような気持ちになります。

食べ物の紹介だけではなく、山田さんの優しさが行間に溢れ、ほのぼのとしたものを感じる至福を得ます。

「食に関する感覚」も掲載したら、という難しいご意見を頂戴しました。

ご期待に沿えるかどうか不安ですが、恥の掻きついでに掲載させていただきます。

「いなり寿司」は、正に、庶民の味だと思います。

「油揚げ」の“ほど良い油味とほの甘さ”と「寿司めし」の“甘酸っぱさ”が、なんともいえない親しみを感じさせてくれます。

名店のものは、それなりに。

我が家のものは、我が家なりに。

「京都の油揚げのちょっと焼き」は、品の良い、油っこさを感じさせない、正に“京風味”ですが、決して“贅沢な味”ではありません。

“庶民的で、うれしい味”とでも申しましょうか。

「水菜鍋」は、“あっさり感”の“ダイエット鍋”と位置付けています。

今回は、こんなことでご勘弁を。














































②   


1 件のコメント:

Susumu さんのコメント...

薀蓄の深い談義、面白く読ませていただきました。
稲荷寿司は特に好物というわけではなかったのですが、二十年も前だったしょうか、奈良のある小さな店で買って食べたもの、やはりそのころ東京では千石(かっての駕籠町)の"おつな寿司"でたべたもの、最近では北鎌倉のある店で買っって食べたものとが抜群の味で、強く印象に残っています。
たしかに、"おつな寿司"のは油揚げが裏返しになっていました。
どうも面白いお話を有難うございました。